だって、しょうがない
 ◇ ◇

「ただいまぁー」

 福岡滞在2日目、ごきげんなテンションの愛理は、ビジネスホテルの部屋に着くなりベッドに飛び込んだ。
 それもそのはず、今回のクライアントと、やたらと気が合い、新居となるマンションで、採寸や配置などの打ち合わせをした後、日が落ち始める前から中洲の屋台にふたりで繰り出し、ビール片手に天ぷらや串焼きなどお腹いっぱい食べてきたのだ。

「はー、明日の打ち合わせ用の資料の点検と今日決めた事をまとめないといけないのに……。シャワー浴びてサッパリしよう」

 このままベッドに居たら、朝になってしまいそうな気配に危機感を感じて、カバっと起き上がり、部屋にあるユニットバスのシャワーのカランを上げた。
 酔い覚ましに少し低め温度のお湯を頭からザアザアとかぶり、アルコールを抜いていく。シャンプーを泡立て、髪を洗い出すと、以前より軽くなった髪の量を実感する。

「なにこれ、シャンプーがものすごくラク。髪の毛切って良かった」

 仕事で来ているのに、こんなに楽しんでいいのかと思ってしまうぐらいに、福岡に来てから充実している。キリキリと締め付けるような胃の痛みもなく、食欲旺盛なぐらいだ。
 それに、だれにも気兼ねをしないで居られる一人の空間も心地よい。

 シャワーから上がると、アルコールも抜けて目も覚めてきた。バスタオルを体に巻きつけ、ドライヤーを片手に、昨日の美容室で教わった通りに手櫛で流れを付けながら乾かす。目の前にある鏡には明るい髪色の自分が映っている。

「ん、イイ感じ! さっ、仕事しよう」

部屋着を身に着け、タブレット端末を立ち上げた。ワイヤレスキーボードで、計測した数字を入力し、会社へ報告のメールを送ればひと段落だ。
 送信ボタンをポチッと押した。

「はー、終わったぁ。ネットで映画でも見ようかな?」

 と、気を抜いたところで、スマホが振動する。
 見守りカメラのプッシュ通知だ。時計を見れば、午後7時をすぎたばかり。
 自宅に淳が戻る時間にしては、少し早いなと思った。

「もしかして、早速、浮気相手を家に連れてきたのかしら……」 

 

 
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