だって、しょうがない
 タブレットの画面を切り替え、見守りカメラのアプリを立ち上げる。

 モニターが捕らえた淳の姿がタブレットの画面に映り込むと、愛理の心拍数がドキドキと上がり、視線は画面に釘付けになった。

 モニター越しの淳は、もちろん見守りカメラで監視されているとは気づいていない様子だ。背広を椅子の背もたれに投げ出し、ネクタイを緩めるとリビングのソファーに腰かけ、テレビのスイッチを押した。そして、ガサゴソとビニール袋が擦れる音がして、缶ビール片手にコンビニ弁当を食べ始める。

「あれ? 淳、ひとりだ」

もちろん、ふたりのマンション。留守番の淳がひとりで部屋に居る事に何ら不思議はないのだが、浮気の証拠をと、意気込んでいた愛理は、肩すかしを食らった気分だ。
 その一方で、自分が居ない間に知らない誰かを部屋に招き入れていなかったことに安堵する。
 
 お気に入りの家具が並ぶ、リビングルーム。寝心地の良いベッド。どれもこれも厳選したもの。あの部屋は愛理にとって大切な空間だった。

 ホッとしたところで、喉の渇きを覚えた愛理は、部屋の隅にある小さな冷蔵庫を開いた。受付した時にサービスでもらったミネラルウォーターを取り出す。口をつけると渇きを満たすように、一気に500mlのペットボトルの半分ほど飲み切った。

「ふぅ……。淳てば、どこにも出かけないでのんびりするのかな?」

 と、タブレットの画面に視線を戻すと、いつものようにスマホを弄る姿が映っている。スマホから顔を上げた淳は急にソワソワとしだし、食べ終わった弁当のパックを持って、立ち上がると画面からフェードアウトした。

 嫌な予感が走った愛理はスマホのアプリWatch quietlyを立ち上げる。位置情報を知らせる赤い点滅はマンション内から動いてはいない。念のためアプリの機能で音声を拾う。

 チンッというエレベーターの音、そして、女の声が入って来る。

『ふふっ、来ちゃった』





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