だって、しょうがない
「えっ⁉ うそ!!」

 スマホの音声も録音をしようと思ってタップをしたが、指先が震えて上手く操作が出来ない。それでも、やっとの思いで操作した。
受け止め切れない現実に、心臓がバクバクと波打ち、呼吸が荒くなる。

「私が居ない間に不倫相手を家に呼ぶなんて……」

 覚悟していたとはいえ、実際に目の当たりにすると衝撃が大きく、心が打ち震える。
 ただ、愛理の頭に浮かぶのは、お気に入りのラタンのソファーセットが置かれたリビングの光景だった。大切な空間だった場所が、汚れてしまったように感じられた。
 
 ドアの閉まる音の後に『おじゃましまーす』と、はしゃぐ女の声がした。
 その音声を聞きながら、愛理は眉根を寄せ、嫌悪感を募らせていく。
 スマホからは、スリッパのパタパタいう音、そして、リビングルームのドアがパタンと閉まったのがわかった。

 愛理は、咄嗟にタブレットのモニターへ視線を向ける。すると、見守りカメラが捕らえた映像が画面に広がった。そこには、淳と見知った顔が映り込み、思わず息を飲む。

「なんで……」

 言葉を失い、ただ、唖然とモニターを見つめていた。
 モニターの中で、お気に入りのラタンのソファーにふたりが並んで座る様子が映し出された。
 すると、胃がキリキリと痛み、奥から急に突き上げてくる。

「うぐっ」

 口元を押えて、慌ててバスルームに走り、倒れ込むようにトイレの座面に手を掛け、激しく嘔吐した。
 吐き出す苦しさで涙がジワリと浮かび、口の中が酷く苦い。
 胃の中が空になっても吐き気が治まらずに、胃液まで吐いた。

「もう、やだ、なんで……なんで……」



 
< 55 / 221 >

この作品をシェア

pagetop