だって、しょうがない

9

 離婚の時、有利になるように証拠を掴みたいと、自ら見守りカメラを仕掛けたのに、そこに映し出された事実。夫と友人から裏切られていたという出来事は、愛理が想像していたよりも何倍も重く圧し掛かった。
 
 ホテルの部屋に居たくないと、当て所無く街中を歩き始める。
 煌びやかなネオンの下、友人と楽しそうにしている人、恋人と寄り添う人、家路へと足早に歩く人。そんな人達が目に映り、自分だけが独り取り残されているように感じられた。
 秋の夜、ひんやりとした風が肌を差し、体温を奪ってゆく。
 愛理は、ぶるりと身を震わせ、自分自身を抱きしめた。

ふと目についたカフェの明かりに引き寄せられてドアを開く。
 ホットココアを注文して、カウンターで受け取ると、窓際の席にぐったりと身を預けた。体だけでなく心まで冷え切り、両手で包み込むようにカップを持ち暖を取る。
 ガラスに寄りかかり、視界に入る外の光景をぼんやり眺めていると、手にしていたココアがだんだんと冷めてくる。わずかな温かみを求めるように口をつけた。
 
 すべての物を吐き出して、空っぽになった胃に仄かに温かいものが流れ落ちていく。
 ココアの甘さが、沁みてきて、涙がジワリと浮かび、鼻の奥がツンッと痛む。
 愛理は、まぶたをギュッと瞑り、涙をこらえた。

 淳とこれ以上、夫婦でいるのは耐えられないのに、実家のことが足枷となり自分からは離婚を切り出せない、宙ぶらりんの明るい未来の見えない状況。荒れ狂う波の中へ突き落とされたようで気持ちが沈む。

──家に戻ったら、淳と今まで通りに暮していくなんて、耐えられそうにないのに……。

 スマホを取り出し時間を見ると時刻は午後8時03分。さっきの出来事から、たいして時間は経っていなかった。
 
 スマホの画面には様々なアプリが並んでいる。その中にある出会い系サイトのアプリが目についた。

「男なんて、いくらでもいる……か」


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