だって、しょうがない

10

シティホテルの部屋から眺める博多の街は、一夜(ひとよ)の闇の中きらめいていた。それをカーテンで包むと、部屋は北川と愛理、ふたりだけの空間になる。

ほんの 少しの後ろめたさと、これからの期待が心の中で交差する。そんな愛理の背中を北川はそっと抱き寄せた。

「あいさん、今日は一緒にいてくれて、ありがとう」

 背中を包み込む北川の耳元で聞こえる声に心がくすぐられる。

「私も独りで居たくなかったから……。KENさんと会えて良かった」

 そう言って、愛理は腰のあたりで組まれている北川の手に視線を落とした。

「KENさんの手……」

「手?」

「男らしい大きな手なのに、繊細な動きをして綺麗だと思って……。それにとても優しく包み込むように触れるのが心地よくって、安心感があって好きです」

 愛理はそっと北川の手の上に自分の手を重ねた。

「そんな褒められ方は初めてだな、なんだか恥ずかしいや」

 北川は本当に照れているようで、愛理の肩へ顔を埋めた。肩に少しばかりの重みを感じ、アッシュグレーの髪が頬に触れる。愛理は背中から伝わる北川の温かみ味わう。
 自分より年上で背も高く男らしい北川を、なんだか可愛らしく感じてしまう。出会ったばかりなのに愛おしい。この魅力的な人をもっと知りたい。と愛理の中で、そんな感情が湧き起こる。

「KENさん、今日は私の恋人になってもらえますか?」

 肩に顔を埋めていた北川が顔を上げた。耳元で彼の声がする。

「いいよ。恋人なら目いっぱい甘やかしてあげられる」

 そう言って、腰にあった彼の手が徐々に上がり、愛理の顎先を捕らえて、横を向かせた。

 北川からふわりと魅惑的なウッディアンバーの香りが漂い、唇に温かく柔らかな感触を感じる。



 
< 65 / 221 >

この作品をシェア

pagetop