だって、しょうがない
 このまま結婚生活を続けてゆく意味がわからなくなった。
 共働きなのに身の回りの世話をして、浮気をされて、女として見てもらえない。まだ、28歳なのにこのまま枯れていくなんて寂しすぎる。

──実家の事が無ければ、明日にでも離婚したい……。

 愛理の実家は、小さな工務店だ。父親と弟、それと2人の職人さんで、一般の木造一戸建てやリフォームをやっているが、このご時世、個人経営では限界がある。経営が回らなくなっていたところに、材木の高騰で仕入れ原価が上がり、ますます経営は厳しくなり借金がかさんだ。そこで、淳の紹介で不動産リフォーム樹に、下請けの仕事を貰うようになり、実家の家計が回るようになっていた。

──離婚したら下請けを切られてしまうかも……。

 そんな不安がよぎった。自分一人なら仕事もあるし、どうにかなるけど実家の分までは背負えない。
 行き先の見えない不安の中、まんじりともしない夜が更けていく。

 ふと、壁に掛けてある淳の背広が目についた。
愛理は立ちあがり、フラフラと近づいて行く。

 淳の背広の前に立ち、手を伸ばす。
 虚ろな瞳で背広のポケットに手を入れ、ガサゴソと中身を探る。何も無いのを確認すると、背広をめくり内ポケットから長財布を取り出した。
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