だって、しょうがない
「うーん、晴れて良かった」
日曜日の午前。
 前日の内に仕事が無事に終了した愛理は、天神駅から西鉄に乗り、太宰府に到着した。駅改札を出ると、晴れ渡った秋空に向かって大きく伸びをする。
「学問・至誠・厄除けの神様」として広くご崇敬を集めている太宰府天満宮に、厄除け祈願に訪れたのだ。

「まずは、グルメからだよね」

 お参りもまだなのに、インストにUPされていた太宰府天満宮周辺のオススメグルメを散策し始め、角煮まんや明太子のしそ握りをほおばる。
 明太子のしそ握りは、口に入れると大葉の香りが広がり、その後にピリ辛の明太子が来て食欲をそそられ、あっという間に食べきってしまった。

「このために朝ごはん抜いて来たんだもの」

 自分に言い訳をし、大きなあまおうが串に刺さった”いちごだんご”をデザートにして、ようやくお腹を満たした愛理は、仕上げにバナナジュース専門店の”ばなじゅう”を飲んでお参りへと向かった。

 案内所を通り過ぎると、池のほとりの曲線と中に築かれた島が「心」という文字の形をしていることから心字池(しんじいけ)と名前が付いた池がある。そこに架かる朱塗りのお太鼓橋が、池の周りの木々とのコントラストが見事で、神聖な雰囲気を醸し出していた。
 現世と神様の領域を分ける橋だと言われているのも頷けてしまう。

 太鼓橋、平橋、太鼓橋の順に通るのには、過去、現在、未来を表しているもので「三世一念」という仏教の教えに基づいたもので、良くない考えを捨てて、水の上を通ることによって、清められるとパンフレットに書かれているのを読んで、愛理は複雑な気持ちになった。

 夫の不倫を知って、ドロドロの気持ちのまま、自分も不倫して、そんな私が清められることなんて出来るのかしら?

 振り返らない、立ち止まらない、転ばない。
 
 太鼓橋を渡る時のルールは、現状のアドバイスのようにも思えた。
 

 
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