だって、しょうがない
「好きになったら自分だけを見て欲しいのも、程度によるけど束縛したくなる気持ちもわかるなぁ。相手に関心があるから持つ感情だと思う。逆に相手から無関心の感情を向けられる方が、寂しいし怖いかな」

 気持ちを言葉にすると胸の奥で黒いものがモヤッと広がり、愛理は手元のグラスへ視線を落とした。そこへ、穏やかなトーンの声が聞こえて来る。

「一度好きになった相手に無関心でいるなんて、そんな勿体ないまね出来ないな。だって、些細な日常の積み重ねが、この先に繋がって行くのに……。無関心でいるなんて、その幸せを自分で捨てるようなものだと思う」

 北川の言葉に頷いて、顔を上げた。

「その考えかた素敵だと思う。日常が当たり前にあるのに慣れてしまって、失ってから初めて些細な日常が特別なものだったって、きっと後になって気が付くんだよね……」

 そう言いながら頭の片隅に淳の姿を思い浮かべてしまった。
関心をスマホへ向け、家が整っているのも食事が出てくるのも当たり前だと思っている。その当たり前にあった日常は、もうすぐ終わる。
 失くしてからでもいいから、あの些細な日常が特別なものだったと後悔して欲しい。
 そうすれば、ずっと頑張ってきた自分は、間違っていなかったのだと思える気がした。
 


 


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