だって、しょうがない
「どうなんだろう? 僕の場合は構いすぎちゃうから、清々したって思われているかも……」

 見た目も良くて、とても優しい北川は、モテると思う。それなのに、過去の恋愛がトラウマになっていると言っていたせいか、どこか不安そうにする時がある。

「そんなことないよ。自分に関心を寄せてくれる人なんて貴重だもん。かまわれて相手の人、安心しすぎちゃったんだと思う。わかるんだ。なんかKENさんと私、考え方が似ているよね」
 
 そう言いながら、自分の行いを振り返った愛理は、従順だった自分が淳に安心感を与え、本来平等であったはずの夫婦関係に上下が付いてしまったのだと思いあたる。好きだったからこそ、彼の世話をしていたのに、いつの間にかそれが義務になってしまっていた。
でも、安心したからといって、パートナーを雑に扱うのは違うはずだ。実際、そんな扱いをされてずっと傷ついていた。
 夫婦とはいえ、人と人。感謝や尊敬やいたわり、慈しみなどの気持ちで繋がるのが理想の形。
それなのに、淳とは 長年一緒に居ても寄り添う事が出来ずに、とうとう気持ちは離れてしまった。

 そして、目の前にいる北川へ顔を上げると、そんな愛理の事情を知らない北川が、話しを続けた。

「そうだね。似ていると思うよ。出会ったばかりなのに、あいさんとは、ずっと一緒に居たような気がする」

「やっぱりKENさんは、私のお兄さんだったのかもよ」

 その言葉に北川がクシャリと笑い、バツが悪そうにポリポリと頬を掻く。

「だから、妹はダメだって、背徳感がスゴイ!」

「んー、じゃあ、イマドキの設定なら、前世で恋人同士だったとか?」

「それなら、OK、無問題」

 美味しい食事に、いつまでも尽きない会話。
 耳触りの良い穏やかな声のトーン。
 まるでカウンセリングでも受けているように、ぐちゃぐちゃだった心の中が片付き、気持ちが軽くなっていた。

 北川との楽しい時間が、さらさらと砂時計の砂のように、滑り落ちていく。

「もう、食べられない。ごちそうさま。福岡の食べ物は美味しすぎる。東京へ帰りたくなくなっちゃう」

「それなら、こっちで暮らしてみれば?」

「え⁉」
 
 
 


 
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