だって、しょうがない
優しくされると、余計に胸が締め付けられて、涙がこぼれそうになる。
 ここまで、感情が揺れてしまうのは、北川の言葉通り、悲しくても悲しいと言えずにずっと無理をして来たからだ。
 
自分さえ我慢していれば、丸く収まると思って、何も言えずにいた。
自分に価値を見い出せず、相手の思うように振る舞う事で、必要とされるのを期待していただけだった。
結局、問題から逃げていただけで、相手をつけ上がらせてしまい、いいように使われるばかりで、なんの解決にもなっていなかったのだ。

「私、ずっと自分の心に嘘をついて、イヤな事もイヤと言えなくて、悲しい時も平気な振りをしていたの。でも、それがどんどん、自分を悪い方向に向かわせていたんだって……。
どん底の状態で福岡に来て……。壊れそうだった。でもKENさんに出会って、大切に扱って貰えたのが心地よくて、自分を大切にしていこうって思えたの」

 未来の約束は出来ないけれど、北川への気持ちを伝えたい。そう思った愛理は手のひらをギュッと握り込んだ。

「私……KENさんに出会えて良かった」

愛しむように愛理を見つめていた北川の手が、テーブルの向こうから伸びて来て、愛理の頭をクシャっと撫でた。

「僕も……このままの自分でもいいんだよ。と受け入れてくれる。あいさんに会えて良かった」
 


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