だって、しょうがない

13

 愛理は、宿泊していたビジネスホテルへ立ち寄り、荷物をまとめると、未練を断ち切るように福岡空港へ向かった。 
 まだ、予約した昼の便の飛行機には早すぎる時間だ。それでも向かわずにはいられなかった。

北川の「好きだよ」という言葉を聞いて、心が震えた。 あのまま、一緒にいたら全てを捨てて縋りつきたくなってしまいそうな自分が怖くなってしまったのだ。
 淳との結婚生活に決着をつけなければ、前に進めないとわかっている。もしも、全てを投げ出し北川のもとへ走ったら彼にも迷惑をかけることになる。
 だから、どんなに悲しくても、ここで関係を断ち切らないといけない。

 つぶれそうな思いを胸の奥に押し込めて、キャスターバッグを引き足早に空港へ向かう。

 空港出発ロビーに着くと、足早に予約してあった飛行機会社のカウンターに立ち寄った。早い時間の便に変更可能か聞くためだ。

 愛理は、カウンターで予約番号を告げ、便の変更手続きを始めた。すると、直ぐ隣りのカウンターにキャップを被った男性がやって来たのが視界の端に映り込む。見覚えのある姿を見つけ思わず名前を口にした。

「え!? 翔くん……」

 愛理に声をかけられた翔は、振り向きざま驚いたように目を見開き、声の主を認識すると柔らかく微笑んだ。

「愛理さんも福岡に来ていたんだ」

 
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