だって、しょうがない
「愛理さんの髪型、似合っていて可愛いけど、少し寒そうだ」

と言って、翔は、アッシュグレーの髪色の男から愛理を隠すように、何気なく体の位置を移動させ、話しを続ける。

「早く保安検査場を抜けて、ラウンジで休もうよ」

「ちょっと待って、私、仕事で来たのに、会社へお土産も買っていないの」

「中でも買えるよ。飛行機に乗る直前に買った方が荷物にならなくていいし、優待割引の効く店もあるから大丈夫だよ」

 戸惑う愛理の手を引き、保安検査場の入り口まで誘導した翔は、辺りを何気なく見回した。
 さっきまで自分たちが居たカウンターの前にアッシュグレーの髪色の男は移動していた。男は探し人を見つけられないまま、途方に暮れたように椅子へ座り何か考え込んでいるようだ。
 その様子に翔は、安堵のため息をつき、保安検査場を通るために電子機器を備え付けの籠に入れた。愛理もそれに続いて、手にした籠へスマホや手持ちのタブレットを入れている。

「愛理さん。福岡に来てどこか観光した?」

「湯島天神へ行ったの」

「あとで、写真見せてもらってもいい?」

そう言って、翔は、愛理の視線を籠の中のスマホへ誘導する。

「いいけど、自撮り写真しかないから、メシテロだよ」

「いいよ。メシテロ写真見せて」

 保安検査場のゲートを過ぎると飛行機に搭乗する人しかいない領域だ。
 翔に促されるまま、愛理は彼に気付くことができずにゲートへと足を進めた。


 
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