シャロームの哀歌
「さぁ、早く取り込まなくちゃ」

 乾燥した風に舞い踊る洗濯物と格闘しながら、ミリは手早く籠に収めていった。
 山盛りになった洗濯籠を、古傷の傷みを無視して運びだす。これが終わったら、次は夕食の準備が待っている。

 流れ着いた孤児院で、衣食住の対価として始めた生活だ。やることに追われる日々は、足が不自由なミリにとってそれは過酷なものだった。
 だが子供たちの笑顔が容易(たやす)くそれを忘れさせてくれた。

 育ち盛りの子供たちは驚くほどの量をあっという間に平らげる。先日買ってきたばかりの食材は、もう残りわずかとなっていた。

(明日はイザク様が来られる日)

 失礼があってはならない大事な方だ。きちんと出迎えるためにも、午前のうちに買い出しを済ませておかなければ。

 癒え切らない片足を引きずりながら、重い籠を抱え急ぎ建物へと向かった。

「ミリ」
「イザク様……!」

 たった今、心を占めていた人物の登場にミリの鼓動が跳ね踊る。

「来られるのは明日ではなかったのですか!?」
「ミリの顔が見たくて一日早めたんだ」
「そんな……! あ、いけません、イザク様にそんなものを運ばせるわけにはっ」

 イザクは寄付を定期的に施してくれる王都に住まう役人だ。ここだけでなく、私財を投げ打ち各地の孤児院を援助するほどの人格者だった。

 そんな彼に奪われた籠を取り戻そうと、ミリは慌ててその背を追いかけた。途中痛みが走り、ミリの足がもつれそうになる。

「危ない、ミリ!」
「きゃあっ」

< 2 / 14 >

この作品をシェア

pagetop