シャロームの哀歌
 転ぶ寸前で抱き留められた。大きな籠を抱えてなお、力強く支えてくる片腕。細身に見えるイザクの肢体は思った以上に筋肉質だ。
 胸板に縋りつき、密着したままミリの頬が瞬時に真っ赤になった。

「おっと!」

 風にあおられたシーツが一枚、籠から宙に舞い上げられる。器用に(はし)を捕まえたイザクの頭上に、ばさりと布が覆いかぶさってきた。

 太陽の匂いを(まと)うシーツにふたり閉じ込められて、腕の中、ミリはイザクの顔を見上げた。
 熱のこもった瞳に捉えられ、動揺で離れようとした瞬間イザクに口づけられる。

「イザク様……」

 濡れた唇を親指でなぞられて、ミリの心も同時に大きく震えた。

「ミリ、明日の予定は?」
「明日は……買い出しに行かないと……」
「分かった。わたしも付き合おう」

 子供たちの近づく声に、イザクの体が離される。

 そのあとどうやって過ごしたのか記憶になくて、ミリは夢見心地で翌朝を迎えた。
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