願わくば、再びあなた様と熱い口づけを。
次に目を開けたとき、気に縛り付けられた私を開放しようとする姉遊女の姿が映し出されました。
遊女の琥珀色の瞳にはボロボロで艶気をなくした生気のない女が一人、映っていました。
その女は乾いた唇を無理やり動かし、遊女に問いかけます。
「ねえさん……十五は……十五は無事ですか? どこにいるんですか?」
縄から解放され、私はねえさんに倒れこみます。
ねえさんは私を受け止めるとそっとやさしく抱きしめてきました。
その身体は震えていつだって虚勢を張って戦うねえさんが、肩を震わせて泣いていることに気づいてしまいました。
私は血で汚れた手をねえさんの背中に回し、暖かな腕の中で涙を流しました。
ねえさんが告げる答えを、私はすでに気づいていたのです。
それでも私は答えを聞かなくてはならなかったのです。
「……十五は、死んだよ。最後まであんたの名前を呼んでいたよ」
「……うそ。だって十五と約束したもの。一緒に世界を見て回ろうって」
上ずった声でねえさんに言葉をぶつけます。
ふと十五の笑った顔が脳裏を過ぎり、私の中で溜め込められていた感情が爆発しました。
「どうしてっ……ただお互いが好きになっただけなのに!!! どうして私たちは未来を見ることを許されないの! どうしてっ……どうしてなのよぉ!!!」
私はこの逃れられない運命を憎み、そして恨みました。
ここは苦界……私たち遊女に自由なんぞ一つもありませんでした。
早口に甲高い声で私は現実を否定し続けました。
そんな私を抱きしめながらねえさんは泣き叫ぶ私の頭をそっと撫でるのでした。
「苦しいね。誰かを好きになることは……この苦界で生きていくには辛いことだね」
私だけではない。
この苦界で生きる女たちは誰ひとりとして笑顔で誰かを愛することが出来なかったのです。
生きるも地獄、死ぬのも地獄。
この苦界から逃れることが出来ず、私たちはみな、花を散らしていくのでした。