願わくば、再びあなた様と熱い口づけを。
もし、このどぶの中に身を投げたらどうなるのだろうか。
黒い汚水が身体にまきついて決して這い上がることは出来なくなるだろう。
溺れ死んで、いっそのこと寺にでも投げ込まれれば楽になれるのではないか。
手からは汗が滲み出し、私は荒い呼吸を繰り返し、ゆっくりとどぶへ歩み寄ります。
もうあと一歩でも踏み出せば落ちる……そこまでいって身体が足元から崩れていこうとしていました。
「なにやってんだ!!!」
突如聞こえてきた声に振り向く間も無く、私の腕を掴まれ身体が引き上げられていきます。
地面に倒れこみ、その衝撃で結い上げていた髪は乱れ、私の代わりに簪がどぶの中へと落ちていきました。
勢いの割に痛みは少なく、衝撃を和らげてくれたであろう手の主に目をやります。
そこには切れ長の目をし、研ぎ澄まされた刀のような美貌をもつ変わった格好をした男が一人おりました。
鋭利な目つきで私を見つめ、身体を起こすと躊躇いもなく私の頬を打ちつけます。
赤くなった頬に手を当てて、私は緩みそうになった涙腺をこらえて男を見つめ返しました。
男はあからさまにため息をつくと、私の乱れた髪を撫で、困ったようにくしゃりと笑いました。
その笑顔が眩しくて目を見開かざるをえませんでした。
「あんたさ、死ぬのを選ぶのはまだ早いんじゃないかい? そこまで年増じゃないだろう」
「……生きてて何になりますか。ここは苦界。私のような醜女には地獄でございます」
「別に醜女ではないだろう。あれか、その火傷を気にしてるのかい?」
「見ればわかりますでしょう! この顔で客は取れません!」
「なら俺が君の馴染みになろう」
「なにをっ……バカにしないで……」
言葉は続きませんでした。
私を見る男の目があまりにも真っ直ぐでそらすことが出来ません。
男の手が固くなった私の顔半面を包み込み、親指でそっと撫でてきました。