願わくば、再びあなた様と熱い口づけを。
「火事は日常茶飯事。火傷は誉れ。火消しにとってみればそんなものよ」
男が身に纏うのは火事装束とよばれるいわゆる火消しのものでした。
くわえてこの男は羽織り方が適当なようで、胸元がぱっくりと開いており、くっきりと浮き出た鎖骨が見てとれます。
美しい男の姿は妖艶で、そこらにいる侍より日に焼けた肌が見目麗しいものでした。
男は手を下ろすと膝に手を当てながら立ち上がり、片手をすっと伸ばしてきます。
私はその手に自身の手を重ね、引き寄せられるがままに立ち上がりました。
満悦そうに笑みを浮かべる男につられてしまい、私もまた口元に手を当てて笑うのでした。
男の目が見開き、そして柔和に目が細められます。
「なんだい、笑えるじゃねぇか。お前さん、もっと笑えばいい。笑った方が何倍も魅力的だ」
「……ありがとう。そうね、もっと……笑って生きていけるようになりたいわ」
「なれるさ。俺が笑わせてやる。俺は煌之介。まわりからはコウと呼ばれている。あんたは?」
「莇。私の名前はあざみよ」
これが私と煌之介の出会いでした。
煌之介の言葉に嘘偽りはなく、この出会い以降、定期的に私の元へ通うようになりました。
ただし肌は求められず、月を見ながら酒を飲み、言葉を交わす。
そんなゆったりとした時間を過ごしておりました。
気さくで明るい煌之介に心を奪われるまでさほど時間はかかりませんでした。
私も笑うことが増え、以前のように俯いて卑下することは減っていきました。
張見世に出ても、格子の向こう側に彼が現れるのを待つ。
そんな日々が続いていくのでした。