願わくば、再びあなた様と熱い口づけを。
ある日のこと、まもなく夜の見世が始まろうという時間に私はとある人物から呼び止められました。


「あざみ、今日は張見世に出なくていい」

「十五さん?」



昔、この見世で看板をはっていたという花魁が命に代えて産んだといわれる子供、それが十五という男でした。

その容姿は母に似て神々しいほどに美しく、見世の女郎たちは競うようにして十五に色仕掛けをしておりました。



ですが十五は女郎たちに手を出すことなく、楼主に虐げられながらも堅実に仕事をする男なのでした。

普段は関わることのない十五に声をかけられ、私は驚きのあまり間の抜けた声を出しておりました。



「見世に出なくていいとはどういうことでしょう?」

「馴染みの火消しの男がいるだろう。その男が客として来ている。すでに部屋には通してある。そちらに行ってくれ」

「コウさんが……わかりました。すぐに向かいます」



そう言って私は緩みそうになる頬を抑えながら足早に部屋へと向かいます。

その後ろを十五も歩いてくるので私は首を傾げながらもいち早く煌之介に会うために歩いておりました。


膝をつき、ゆっくりと障子扉をあけると部屋の中には煙管を手に煙を吐き出す煌之介の姿がありました。

部屋の中へと入ろうとすると、私より先に後ろにいた十五が入っていきます。


何故十五もついてきたのか理由もわからず、私は戸惑いながら中に入り、そっと扉を閉じました。



薄暗い部屋の中で行灯のあかりがゆらゆらと揺れます。

私は十五の少し後ろで膝をつき、煌之介が口を開くのを待ちました。


煌之介は煙管を手放すと、畳の面をなぞるように指を滑らせ、凛々しい表情で十五と私を眺めておりました。

< 16 / 34 >

この作品をシェア

pagetop