願わくば、再びあなた様と熱い口づけを。


「あざみ、来たぞ」

「お越し下さりありがとうございます。とても嬉しく思います……」


言葉は消えいるようにして溶け込んで行きます。

火傷した顔半面を覆う髪が流れます。

その髪を手で直しながら斜め前に座り込む十五へと視線を向けました。

困り果てた私を見て煌之介は声を上げて笑うと胡座をかき、腕を組んで口角を上げました。


「何故十五がここにいる、と聞きたそうな顔だな」

「それはっ……そうですよ」

「そうだな。まず俺と十五の関係を話そう。十五とは俺が火消しになったばかりの頃に出会った。はじめての現場がこの見世の近くの小見世で、それからの仲だ」



数年前にこの見世の近くの別の見世でボヤ程度の火事が起こりました。


火事は頻繁に起こるので、ここで何年も働く私でもそんなことがあった、とおぼろげに思い出す程度のことでした。




「今日、ここに十五がいるのはちょっとした話をしたいからさ。あざみ、お前さんも話を聞いていろ」

「わかり、ました……」



私は十五へと身体を向けます。

十五は気まずそうに私から視線をそらすと、しばらく考えたそぶりを見せ、それからゆっくりと口を開いていきました。




「近いうちに葵が水揚げされる。その時にこの見世に火を放つ」



その言葉に私の思考は止まりました。

葵とはこの見世にいる新造であり、青い瞳をした異国混じりの女です。

十五と葵は昔から仲良いとは思っておりましたが、恋仲であったとは知らず、驚きを隠せませんでした。


ですがそれ以上に、十五の火付け発言はあまりに衝撃的で、私は何をどう受け止めればいいのかわかりませんでした。

十五は話を続けていきます。

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