願わくば、再びあなた様と熱い口づけを。
十五は昔、看板を張っていた花魁の子であり、母が亡くなった後もずっと下男としてここに残されていました。
私は十五の強い瞳に、屈服しないその姿に心を奪われました。
その後、しばらくして遊郭の裏側にある庭で十五が井戸から水を組み、口元を洗い流しているところに出くわしました。
幼い私は十五に歩み寄り、水に濡れた口元を袖で拭います。
その行動に驚いた十五は私の手をなぎ払い、怪訝な表情で私を見つめました。
「お前……売られてきたのか」
「うん。おっ母がね、苦しいんだって。お金がなくて生きていけないのもそうだけど……私の目をみると父ちゃんのこと、思い出すんだって」
私の瞳は父親譲りの青色でした。
この瞳は義父となった男からも忌み嫌われ、誰も近寄ろうとはしてきませんでした。
母は父に捨てられた後もずっと父に恋焦がれ、私の瞳を見るたびに父を思い出し、涙を流していました。
私は母に悲しい思いをさせるこの瞳が大嫌いでした。
悲しい母の背中を思い出すと、胸が熱くなり涙がこみ上げてきました。
そんな私の想いに気づいたのかはわかりませんが、十五は手を伸ばし、私の頭をよしよしと撫でてくれました。
「泣くな! 俺はお前の目、綺麗だと思うぞ!」
「綺麗……?」
「青く澄んでて……どこまでも世界が広がっているみたいだ。俺には……そう見える」
その言葉に私は十五の胸に飛び込み、声を押し殺して泣き続けました。
少し困ったようにぎこちない手つきで背中を撫でてくれる十五の手に私の心は癒されていました。
しばらくして涙が止まり、十五から離れ顔をあげるとそこには眩しい笑顔を浮かべた十五がいました。
「お前、名前は?」
その問いに私は微笑を浮かべ、鈴を鳴らすような声で答えました。
「葵」
それが私と十五の出会いでした。