願わくば、再びあなた様と熱い口づけを。
「私はコウさんと出会えた。それだけで幸せをいただきました。それで満足でございます。今までありがとうございました」

「……本当はお前さんではない女と馴染みになるはずだった。だが俺はお前さんを選んだ。俺にはお前さんが生きたいと叫んでるように見えたんだ。もがくお前さんを見て、馴染みになると口走っていた。……そのことに後悔はない」


煌之介は手を伸ばし、私の身体を強く抱きしめます。

耳元で煌之介の熱い吐息を聞き、私は震える想いで抱擁を受け止めておりました。


「お前さんの笑った顔が好きだった。お前さんに笑ってほしいと願った。その気持ちに嘘偽りはない。……俺はあざみ、お前さんを愛してしまったんだ」


溢れ出す感情をおさえられず、熱い雫が瞳からこぼれていきます。

力の入らない震える指先を煌之介の背中に回し、装束をくしゃりと握りしめます。

この苦界の中で私が生きていける場所があるとは思っておりませんでした。

誰かに触れられることに怯え、自分を卑下し、俯いてばかりの人生でした。

そんな私が愛した人の目に映り、愛を告げられる奇跡のような出来事に涙を流さずにはいられません。

力いっぱい手に力をこめ、すがりつくように煌之介を抱きしめ返し、叫ぶように声をあげました。


「私も、愛していますっ……コウさんを、愛してます!」


煌之介の手が私の前髪をかきわけ、火傷の跡に触れてきます。

そこに優しい雨のような口づけが落とされます。

流れるような動作で私たちは畳に倒れ込み、互いを求めるように荒々しく唇を重ね合わせました。

衣擦れの音、荒い呼吸、チリチリと音を立てて揺れる行灯の炎。

一つ一つの音が愛おしく耳に残りました。

それが苦界で、私が女でいられた時間となりました。

それから煌之介と結ばれた私は女として幸せを噛みしめ、廓から帰っていく煌之介を笑って見送りました。

空を見上げると、いつもより大きく赤みがかかった月がこの廓を照らしておりました。

乱れた髪から簪を外していくと風が私の長い黒髪をなびかせていくのでした。


そしてついに、葵の水揚げの日が訪れました。

夜の見世がはじまろうとし、女郎たちが己のいくべき場所へと慌ただしく向かっていきます。

私もまたその場所へと向かっていきますが、妙に胸がざわつき、足を止めてあたりを見回しました。

その胸が騒つく方へと足を進めていくと、その違和感の原因にたどり着きました。

パチパチと火花が弾ける音がし、焦げ臭い匂いがあたりを充満していました。

見世の片隅で炎が燃え盛り、その中心に昨日別れたばかりの煌之介の姿がありました。

昨夜の乱れた姿のまま炎の前に立つ煌之介の目は悲しげに揺れており、手にもたれた松明が轟々と燃えておりました。


「コウ、さん……」

「……すまない、あざみ」


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