願わくば、再びあなた様と熱い口づけを。
それと同時に私に覆い被さる人がおりました。
炎は私たちを襲い、身体が徐々に焼かれていきます。
木片の重みと燃え盛る炎で動きの取れない私は、上に覆い被さる人を見て涙を浮かべました。
「コウさん……どうして……」
「……好いた女を一人には出来ねぇよ。すまない、俺のせいで」
「いいえ……いいえっ! 私と……共にいってくれるんですか?」
「あぁ……共に……」
「……愛してます。あなたに出会えて良かった」
その言葉を最後に、私たちの間に言葉はありませんでした。
一瞬だけ唇を重ね合わせ、私たちは微笑みあうとそっと目を閉じました。
再び天井が崩れ、火の粉が舞い散ります。
炎は見世全体を包み込み、結果として全焼してしまう大火事となりました。
一人の女の狂乱として起こった火事とされ、真相はすべて炎の中に包まれました。
火消しの男と、火の女の恋は誰にも知られることなく燃えていきました。
後に語れることもなく、一人の女郎を残して炎はすべて飲み込んでいくのでした。
これが火の女と呼ばれた女の燃え盛る炎のようなひと時の恋でございました。
あざみ編【完】