願わくば、再びあなた様と熱い口づけを。
突如、腕を引っ張られ私は驚きで目を見開きます。

後ろへと振り返るとそこには汗を流し、呼吸を乱す十五の姿がありました。


「十五……」

「……っこのバカ! 急に飛び出したら足抜けと思われるぞ!」

「……いいよ、そう思われても。十五も……知ってるんでしょう? 私が水揚げされること」



苦しそうに表情を歪ませる十五を見て、私は涙を流します。

十五の胸に縋るように頬を寄せました。



大きくて温かいぬくもりに私は頬ずりをし、たくましい背中に手を回します。

それに対し十五は困ったように右手で額を抑えると、私を引き離し手首を掴んで見世へと戻ろうとしました。


私は首を振り、十五の手を振り払おうとしましたが敵いません。

十五の進むままに足を動かしました。

たどり着いた先は見世ではなく、人の通らぬ路地裏でした。

人の目がなくなるとすぐに十五は振り返り、強く私を抱きしめてきました。



「十、五……」

「……俺にとってのお前は、光なんだよ」

「光……?」

「俺は生まれてからこの場所以外を知らない。この狭い世界で生きてきた。あのクソ主に何度言われたことか。”お前が女であったならば”と。俺には最初から下男として生きる道しかなかったんだ。そんな現実に歯向かって何度も殴られたよ」



十五の生きる世界はあまりに狭かったのです。


たった一つの出入り口から出ることも許されず、死んだ母親の借金を生まれながらに背負い、この世界で生きてきました。


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