願わくば、再びあなた様と熱い口づけを。
十五の母はそれはそれは美しい女だったと今でも楼主は口にします。
もしも十五が女だったならば、この遊郭で花を咲かすこともできたというのに惜しい……と何度も何度も言っていたのです。
逃げることも出来ず、十五は自分を否定するだけの場所でしか生きることが出来ませんでした。
「そんな俺の前に現れたのが葵、お前なんだよ」
「私……?」
「お前のその目を見たとき、俺ははじめて世界を知った。あの門の向こう側には俺の知らない世界がずっとずっと広がっているのだと。青い瞳が……お前のことを本当に綺麗だと思ったんだよ」
その告白は私の心を満たすには十分な言葉でした。
もし私がこの場所にきた意味があるのだとしたら、それは十五に出会うためだったのでしょう。
彼の言葉で私は強く、気高く生きていける。
十五にとって私が光だったというならば、私にとってもまた十五は光だったのです。
「俺はいつか必ずここを出る。その時は……葵、お前も一緒だ」
「私を待っていたら……何年かかるかわかんないよ?」
「何年でも待つさ。葵と一緒に外を……世界を見たいんだ」
「……貴方を信じます。私の心、貴方に預けます」
私たちの唇は自然と重なり合いました。
いつか堂々と門をくぐり抜け、二人で外の世界に出られる……そんな夢を見て涙が流れました。
飽くことなく深く唇を重ね、互いに求め合いました。
もうお互いに時間が残されていないことを、無意識に自覚していたのかもしれません。
唇が離れた時にはもう、私たちの逃げ道は残されていませんでした。
楼主をはじめとした見世の男たちが私たちを囲んでいました。
「怪しいと思ったらやはり……お前たち裏で通じていたか!」
「楼主……様……」
「十五! お前を育ててきた私に対し、恩をアダで返すか! ええい、この二人を捕まえろ!」
……夢を見たかった。
貴方と二人で世界を見て回る……そんな夢を見たかった。
この想いが通じただけでも私はこの廓で生きた女として幸せ者でした。