願わくば、再びあなた様と熱い口づけを。


目を開くとそこには片目を失い、身体中傷だらけで足を引きずる十五の姿がありました。

彼は手を伸ばして私の頬に触れると静かに涙を流しました。



「ごめんな、葵。お前のこと、守ってやれなかった」

「ううん、もういいの。十五が生きててくれるならそれでいい」



その言葉に彼は苦笑を浮かべるだけでした。

親指の腹で何度も私の輪郭をなぞり、血で染まった手を震わせます。



「十五……私、十五が好き。大好きよ」

「うん。俺も葵が好きだよ。葵に出会えてよかった。俺にとって葵が世界の全てだった」

「いつか……いつか必ず一緒に外に出よ? それで世界を回るの。目の青い人にたくさん会って、世界を大きくするの」

「……あぁ、それは……いいな。でもきっと、葵以上に綺麗な青は……ないんだろうな」



目を細め、穏やかに微笑む十五を見て、私の頬を伝っていた涙がこぼれ落ちました。


私たちは静かに唇を重ね合わせます。


誰も見ていない。

何の音も聞こえない。

世界にいるのは私たち二人だけでした。



そっと唇が離れると同時に、私の頬を触れていた十五の手も離れていきます。

泥で汚れ、固まりかけた血をまとっているというのに、十五の笑顔はこれまで見た笑顔の中でもっとも美しく見えました。


十五の口が動き、何か言葉を発していました。


ですが私の意識は段々と遠のいていき、十五の言葉を聞くことは出来ませんでした。

私は言葉を返すことも出来ず、意識を飛ばすのでした。


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