死神?・・は・・・私の・・・?
「麗香・・・」
「麗香先生・・・」
「反応がないな・・・」
― ここはどこ? 亨・・・林田副婦長・・・ 私はどうしたの?
― あれ? 二人とももう行っちゃうの??? 私の声は聞こえないの???
夜、私は目を開けた。辺りを見回すと、真っ暗な部屋の角に背が高くほとんど目が見えない程前髪が長く、ポケットに両手を突っ込んだ白衣の男が浮かんで見えた。
『誰? 私はどうしたの? ここは? 』
『泉田麗香さん・・・で間違えないですか?』
その男はふたつの音かまじりあったような少し不思議でありながらも落ち着いた声でそう言った。
『・・・はい。』
『あなたは表参道でキックボードに激突されて、そのはずみで頭を歩道の鉄柵にぶつけて打ちどころが悪かったんですね・・・一週間意識が戻っていません。ここはあなたのご実家で、そしてお勤め先でもある病院です。』
『意識が戻っていないって・・・私はあなたとこうして話をしていますよ。』
『あー、それは錯覚というか、夢の中というか・・・』
『えっ? 私はどうなっているの? あなたは誰? 何課の先生? あなたのこと知らない! 』
『すごいですね・・・、怒涛の質問攻めだ。まあ、僕は今日初めてお会いしますからね。知らなくて当然ですよ。・・・僕は死神。あなたを迎えに来ました。』
『えっ? 白衣着てるじゃない・・・先生じゃないの? ・・・死神? なにそれ? 私は死ぬの? 』
『はい。まもなく死にます。・・・ここは病院ですから、白衣が一番似合うでしょ。一度着てみたかったんですよ。まあ、誰も僕のこと見えないんですけどね。今はあなた以外・・・』
『ちょっと・・・ちょっと、待ってください。あなたの遊びに付き合ってはいられません。私まだ死ぬわけにはいかない。患者さんはいっぱいいるし、やりたいことだっていっぱいあって・・・』
『やりたいことって?』
『まずは、医者としてもっとレベルアップして患者さんのために尽くしたい。』
『あー、ご立派なお心掛けで・・・泉田麗香さんは心療内科のお医者さん・・・でしたね。何科でも関係ないのですが、医者は皆僕らの敵です。』
『敵?』
『そうですよ。僕らは出来高制でして、どんな人を何人あの世に送ったかで査定されるんです。』
『はっ?』
『だから・・・お医者さんは死にそうな人、直しちゃうでしょ。わかりますよね。折角ポイント稼げそうなのに医者はそれをわれわれから奪ってしまう。ですから・・・医者は敵です。あなたにはやっぱり死んで頂かないと・・・』
『イャです。まだ生きていたいです。何か方法はないのですか? 生き伸びる方法・・・』
『うーんと・・・もうちょっとお話しましょうか。・・・泉田亨さん・・・は、あなたの旦那さんですよね・・・』
『はい。この病院の院長でもあり医師です。』
『彼があなたの手術をしました。脳内出血のね。』
『そうですか。彼は優秀な脳外科医ですから・・・彼に手術してもらってよかった。』
『優秀ね・・・うーん。なら、わざとあなたの手術をミスしたのですかね・・・』
『えっ?』
『あなたの頭にはまだ問題がある。』
『わざと、それを見過ごしたというのですか?』
『・・・そうなりますね。』
『なんで?』
『さあ? なんででしょうねー・・・うーん・・・亡くなる前にこんなことお聞かせしなくてもいいのですが、死ぬ覚悟をもっていただくためにはこれをお話しするのが早いですかね。・・・あなたの旦那さん不倫していますよ。それもあなたと結婚する前から。あっ、結婚前は不倫と言わないのか・・・続いてるってことですね。』
『えっ?』
『それを聞けば、何となく想像できますよね。旦那さんの行動・・・まったく気が付きませんでしたか? よろしくやられているようで・・・。あなたのことだから、今あなたの頭の中では、誰と?どこで?どうやって?・・・ってグルグルしていますよね。・・・教えてあげますよ・・・お相手はこの病院に勤めている人です。僕も驚いたのですが、病院っていろんな場所有るんですね。同じ日に夜勤して隠れて事に至ることが出来る場所が・・・それに、出張と言って外泊もしていたみたいだし・・・旦那さん、なかなかですね・・・』
『そんな・・・』
『ちなみに今日もその方とご一緒のようですよ。お相手・・・知りたいですか?』
『いえ・・・結構です。』
『まあ、そうですよね。死ぬ前にそんなこと知ってもね・・・死ねば約1日で現世の記憶は無くなります。いろいろ言われていますけど、たった1日なんですよ・・・死んだあと現世をのぞき見できるのは・・・。残った人たちが自分の死でどんな反応をするか・・・悲しむのか、喜ぶのか・・・。でも、僕思うんですよね・・・何のためにそんな時間があるのかって・・・それ見たからって、どうするのですかね・・・意味ないのに・・・』
『・・・あの、やはり知りたいです。』
『もう気が変わったのですか? 知っても何もできませんよ。あなたは声も手も出せない。それでも知りたいですか?』
『はい。』
『ふーん・・・そうですか、わかりました。あなたの願いを叶えましょう。ではまたあなたがまた気が変わらないうちに早速見に行きましょうか。いいですか・・・僕の手を掴んで・・・』
「麗香先生・・・」
「反応がないな・・・」
― ここはどこ? 亨・・・林田副婦長・・・ 私はどうしたの?
― あれ? 二人とももう行っちゃうの??? 私の声は聞こえないの???
夜、私は目を開けた。辺りを見回すと、真っ暗な部屋の角に背が高くほとんど目が見えない程前髪が長く、ポケットに両手を突っ込んだ白衣の男が浮かんで見えた。
『誰? 私はどうしたの? ここは? 』
『泉田麗香さん・・・で間違えないですか?』
その男はふたつの音かまじりあったような少し不思議でありながらも落ち着いた声でそう言った。
『・・・はい。』
『あなたは表参道でキックボードに激突されて、そのはずみで頭を歩道の鉄柵にぶつけて打ちどころが悪かったんですね・・・一週間意識が戻っていません。ここはあなたのご実家で、そしてお勤め先でもある病院です。』
『意識が戻っていないって・・・私はあなたとこうして話をしていますよ。』
『あー、それは錯覚というか、夢の中というか・・・』
『えっ? 私はどうなっているの? あなたは誰? 何課の先生? あなたのこと知らない! 』
『すごいですね・・・、怒涛の質問攻めだ。まあ、僕は今日初めてお会いしますからね。知らなくて当然ですよ。・・・僕は死神。あなたを迎えに来ました。』
『えっ? 白衣着てるじゃない・・・先生じゃないの? ・・・死神? なにそれ? 私は死ぬの? 』
『はい。まもなく死にます。・・・ここは病院ですから、白衣が一番似合うでしょ。一度着てみたかったんですよ。まあ、誰も僕のこと見えないんですけどね。今はあなた以外・・・』
『ちょっと・・・ちょっと、待ってください。あなたの遊びに付き合ってはいられません。私まだ死ぬわけにはいかない。患者さんはいっぱいいるし、やりたいことだっていっぱいあって・・・』
『やりたいことって?』
『まずは、医者としてもっとレベルアップして患者さんのために尽くしたい。』
『あー、ご立派なお心掛けで・・・泉田麗香さんは心療内科のお医者さん・・・でしたね。何科でも関係ないのですが、医者は皆僕らの敵です。』
『敵?』
『そうですよ。僕らは出来高制でして、どんな人を何人あの世に送ったかで査定されるんです。』
『はっ?』
『だから・・・お医者さんは死にそうな人、直しちゃうでしょ。わかりますよね。折角ポイント稼げそうなのに医者はそれをわれわれから奪ってしまう。ですから・・・医者は敵です。あなたにはやっぱり死んで頂かないと・・・』
『イャです。まだ生きていたいです。何か方法はないのですか? 生き伸びる方法・・・』
『うーんと・・・もうちょっとお話しましょうか。・・・泉田亨さん・・・は、あなたの旦那さんですよね・・・』
『はい。この病院の院長でもあり医師です。』
『彼があなたの手術をしました。脳内出血のね。』
『そうですか。彼は優秀な脳外科医ですから・・・彼に手術してもらってよかった。』
『優秀ね・・・うーん。なら、わざとあなたの手術をミスしたのですかね・・・』
『えっ?』
『あなたの頭にはまだ問題がある。』
『わざと、それを見過ごしたというのですか?』
『・・・そうなりますね。』
『なんで?』
『さあ? なんででしょうねー・・・うーん・・・亡くなる前にこんなことお聞かせしなくてもいいのですが、死ぬ覚悟をもっていただくためにはこれをお話しするのが早いですかね。・・・あなたの旦那さん不倫していますよ。それもあなたと結婚する前から。あっ、結婚前は不倫と言わないのか・・・続いてるってことですね。』
『えっ?』
『それを聞けば、何となく想像できますよね。旦那さんの行動・・・まったく気が付きませんでしたか? よろしくやられているようで・・・。あなたのことだから、今あなたの頭の中では、誰と?どこで?どうやって?・・・ってグルグルしていますよね。・・・教えてあげますよ・・・お相手はこの病院に勤めている人です。僕も驚いたのですが、病院っていろんな場所有るんですね。同じ日に夜勤して隠れて事に至ることが出来る場所が・・・それに、出張と言って外泊もしていたみたいだし・・・旦那さん、なかなかですね・・・』
『そんな・・・』
『ちなみに今日もその方とご一緒のようですよ。お相手・・・知りたいですか?』
『いえ・・・結構です。』
『まあ、そうですよね。死ぬ前にそんなこと知ってもね・・・死ねば約1日で現世の記憶は無くなります。いろいろ言われていますけど、たった1日なんですよ・・・死んだあと現世をのぞき見できるのは・・・。残った人たちが自分の死でどんな反応をするか・・・悲しむのか、喜ぶのか・・・。でも、僕思うんですよね・・・何のためにそんな時間があるのかって・・・それ見たからって、どうするのですかね・・・意味ないのに・・・』
『・・・あの、やはり知りたいです。』
『もう気が変わったのですか? 知っても何もできませんよ。あなたは声も手も出せない。それでも知りたいですか?』
『はい。』
『ふーん・・・そうですか、わかりました。あなたの願いを叶えましょう。ではまたあなたがまた気が変わらないうちに早速見に行きましょうか。いいですか・・・僕の手を掴んで・・・』