長嶺さん、大丈夫ですか?
 そこで長嶺さんがごくりと息を吞んだ。


「大変申し上げにくいんですが……僕はそのようなことはしていません。 なにか勘違いしてらっしゃるんじゃないでしょうか。 今一度麗華さんと話し合って……」

「麗華が嘘を言ってると言いたいのか!!」


 社長が床に振り下ろした竹刀がバァン!!と派手な音を立てて、私たちはビクゥッと体を跳ねさせる。
 あんなのが当たったらきっと一発で病院送りだ。


「今回の件で色々と調べさせてもらった。 お前、普段から女性を毎晩取っ替え引っ替えして随分遊んでいるようだな。 すっかり騙された……お前がそんな汚い男だったとは」


 汚い男……?

 社長はまだおさまらない怒りを必死に内に閉じ込めようとフーフーと鼻で息をする。


「本当なら通報してもいいようなことだが、大事にしたくないという娘の意見を尊重する。分かってると思うが、今ある取引はすべて中止だ!」

 
 すべて……!? そんな!


「待ってください、僕が娘さんに対して不快な思いをさせてしまったことに関しては本当に申し訳なく思っております。ただ、我が社の製品に罪はありません。担当を変えてもう一度チャンスをいただけませんか」

「ふざけんな!!お前みたいな低俗な人間を雇っている会社にもう興味はねぇ!!帰れ!!」


 社長はどこから持ってきたのか瓶に入った塩を鷲掴みして思い切り私たちに投げつけた。


「っ、」


 長嶺さんのスーツからパラパラと塩が落ちていく。

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