長嶺さん、大丈夫ですか?
 もしかして長嶺さん、少し酔ってるのだろうか。自分がふった相手と手を繋いで歩いてること、気付いてるかな。
 こんな状況でもしっかり胸がキュンとしてしまうのでやめて欲しい。
 もちろん私から手を離すなんて選択肢はないし、なんで手を繋いでるのか、なんて言及するような勿体ないことはしたくない。
 だからそれ以外の、ずっと疑問に思ってることを口にする。

「あの……長嶺さんは、なんであそこに?」

「太一から連絡来たから」

「太一さんから……?」

「後輩来てるよって」

 ん? 私、会社名とか太一さんに言ったっけ?
 自分の身なりから会社が分かるヒントがあっただろうかと探し始めた時、駅に出る前の人気のない路地に入った。

 そういえばみなちゃんさんは、どうしたんだろう。
 デートを放り出して駆けつけてくれたんだろうか。
 だとしら嬉しい、なんて、喜んでしまう私は性格悪いだろうか。


 そこで長嶺さんが突然立ち止まる。
 私も足を止めると振り返った長嶺さんの眉間に深いしわが寄っていて、不意打ちでドキッとする。


「つーか花樫さんこそなんであんなとこにいたの?しかも一人で。何考えてんの」

 長嶺さんが本気で怒ってることが伝わってきて、身がすくむ。
 それは初めて長嶺さんに怒られたときよりも強い声で、それが長嶺さんの優しい心配から来てることに気が付いて、また胸がギュッとなる。

 
「……長嶺さんの世界が知りたかったんです」

「……は?」


 本当に意味がわからないとでも言いたげな長嶺さんの目を、私はこれから涙が滲もうとする目でちゃんと見返す。

 
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