長嶺さん、大丈夫ですか?
「私が圏外だってことはわかってます。長嶺さんが優しさで突き放してくれてるのも分かってるつもりです。でも、少しでも近づきたかったんです。ありえないを、ありえるに近付けたかったんです」


 私と長嶺さんの間にある、目に見えない深い溝。
 環境や、年齢、過去。
 どれもどうしようもないものばかりで、でも少しでも抗いたくて。

 
「この気持ちは、なかったことにできないです。今まで自分が積み上げてきた価値観なんかどうでもよくなるぐらい、大きくなっちゃったんです」


 きっともうすぐ離されて、一生握ることはできないだろう長嶺さんの手をぎゅう、と握る。


「やっぱりだめですか。私は、『無理』ですか」


 あぁ、涙なんか流して。
 なんてみっともない姿だろう。

 案の定、長嶺さんからため息がもれる。
 
 長嶺さんはきっと困って、めんどくさい女だと思って、今後さらに私を遠ざけたいと思うだろう。
 私だって困らせたくないし、ましてや嫌われたくない。
 それでもこの気持ちをおさえる術が分からない。
 どうやって涙を止めたらいいのかわからない。


「もー……バカだな」


 長嶺さんが両手で私の頬に触れて、涙を拭ってくれる。


「っ……、すみません」


 長嶺さんの優しい手つきにまた涙がボロボロとあふれ出してしまって、なんとか止めようとギュッと目をつむった。

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