長嶺さん、大丈夫ですか?
 俺は暇つぶしにグラスの汗を撫でてアオムシの絵を描き始めた。


「光は人が良すぎ。 お前はただ好きな女ができて、全力で奪いに行っただけだろ。 なにがいけないんだよ。 世の中には結婚してるやつに手出しても平然としてるやつらがごまんといるっていうのに」


 そう、俺とかね。


「それは極論だろ。俺は恋愛すると自分勝手になるから……それが嫌なんだよ」


 大学卒業してから5年以上。


「怖いんだよ。誰かを不幸にしちゃいそうで……俺が誰かと幸せな未来とか、イメージできねぇ」


 お人よしすぎる不憫なクズは、このように『イケメンなのに恋愛に自信がない拗らせ男』として見事な成長を遂げてしまったわけだ。


「ポエりたいならSNSでやって。拡散してやるから」

「だから困るんだ、理子ちゃんみたいな真っ白な子にまっすぐ向かってこられると調子狂うんだよ……」


 俺と会話する気のない光は、さりげなく〝理子ちゃん〟って名前を発表しちゃってることに気付いているだろうか。


 光はテーブルで組んだ腕の中に自分の顔を突っ伏して、ぼやく。


「今まで俺がどんだけクズアピール頑張ったと思ってんだ……なんで告白なんかしてくんだよ、バカ理子……」


 いつも遊び歩いてる光だけど、たまに女の子の方が本気になってしまい告白されることもあった。
 だから光はそれをうまーくかわす術も習得していて、ここ最近はそういう女の子を察知して避けるスキルがついたからか、告白されることはなかった。

 だから一人の女の子に告白されてこんな風に苦しそうにする姿は珍しい。

< 130 / 284 >

この作品をシェア

pagetop