長嶺さん、大丈夫ですか?
 ――衝撃の朝チュン後。
 
 一日置いて、逃げた女と逃げられた男が隣に並んで仕事をする。

 気まずいに決まっている。


「あれ? なんか顔色悪くない? 大丈夫ー?」


 あ、怒ってる。 多分、かなり、怒ってる。


 私はかつてない恐怖に打ち震えながら愛想笑いを返して、課せられた任務をさっさと終わらせてしまおうとデスクの下から(ブツ)を取り出した。


「あの……これ、ありがとうございました」


 私は紙袋を両手で持って、長嶺さんに渡す。

 それを受け取った長嶺さんは、中に入った洗濯済みのスウェットを感情のない目で確認して「ああ」と呟くと、


「俺からも。はい」


 鞄と一緒にデスクに置いていたネイビーの紙袋を私に寄越した。


「……?」


 紙袋の中には、某アパレルブランドのロゴが入ったビニール地のショッパーバッグ。

 中身の見えないそれをさわってみて、察した。


「っ、」


 私のブラジャー。


 顔の表面温度がみるみる上昇して沸騰する私を、長嶺さんは覗き込んでニコッと笑った。



「〝ありがとうございました〟」


「おおおおお手洗い行ってきます!!」




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