長嶺さん、大丈夫ですか?
長嶺さんの黒い笑顔から逃れるように廊下に出た私は、急いでロッカールームに入って自分のロッカーに紙袋をしまった。
「はー……」
閉めたロッカーに頭をもたれさせて脱力する。
月曜日はまだ始まったばかりだと言うのに、もう疲れた……これからどうしよう。
幸いなことに今日は一年目社員の新人研修の日で、私はこのあと会議室にこもる。
一週間前はあんなに億劫だった新人研修だったけど、今はこの日程を組んでくれた人事部の人に心から感謝したい。
とはいえ少しやっておきたい事務処理もあるし、そろそろ戻らないと……。
このままサボって家に帰りたい気持ちと戦いながら、ロッカーの鍵を閉める。
長嶺さん……すごく怒ってたな。
すごく怖かった。 闇の魔族のボスかと思った。 普段優しい人が本気で怒ると怖いって本当だったんだ。
……長嶺さんが怒る理由は、よくわかる。
最初に処女貰ってくださいとか言ったのは私の方なのに、いざそういうことになったら何も言わずに逃げるなんて、最低だ。
私はスマホを開いて長嶺さんから届いたメッセージを開く。
逃げた後、長嶺さんからきたメッセージは2件。
【大丈夫?どうした?】
【ちゃんと話したい。電話できない?】
こんな時でも心配してくれている。優しい。
私はこの優しいメッセージを、無視した。
だって、ちゃんと話すなんて……できない。
面と向かって話したりしたら、きっと私は……。