長嶺さん、大丈夫ですか?
 大きなため息をもうひとつ吐いてから、ロッカールームを出る。
 廊下を重い足取りで歩いていくと、廊下の奥の方から長嶺さんが歩いてきていた。

 長嶺さんも私に気付いて、目が合いそうになって咄嗟に逸らす。

 う どうしよう

 気まずい、顔があげられない

 廊下に他の人はなく、私と長嶺さん二人だけの足音がコツコツと鳴り響く。

 近づくにつれ、ドキン、ドキン、と胸の鼓動が大きくなる。

 心なしか長嶺さんからじっと見られているような気がする。

 そしてとうとう真横に来て、すれ違おうとしたその時だった。

 突然私の前に長嶺さんの腕が出され、そのまま抱き込むようにして肩を捕まえられた。


「!?」


 そして私は長嶺さんの進行方向に引きずられ、後ろ歩きで資料室の方へと連れていかれる。


「えっ!?まっ、あのっ、待ってくださ……っ」

 

 あれよあれよという間に資料室に連れ込まれ、バタン!と扉を閉められた。

 気が付くと、私は資料室の扉を背にして、無表情の長嶺さんに壁ドンをされていた。


「え……?」


 それは少し動けば触れてしまうほどの近い距離。


「な、長嶺、さ……」


 ここ会社ですよ、なんて笑って言える空気じゃない。

 私を見下ろす冷ややかな目はどこか艶を帯びていて、ゾクッとする。


「……」


 長嶺さんは何も言わずに私の腰元に手を伸ばした。


「っ、」


 触られる、と身構えると、

 ガチャン。

 私の腰元にあるドアの鍵が閉められた。



「……俺をヤリ捨てるなんていい度胸じゃん?」


< 141 / 284 >

この作品をシェア

pagetop