長嶺さん、大丈夫ですか?
「……〝ユカ〟さん?」

「あっ、でも、もうその子は結婚してるし、長嶺もとっくに吹っ切れてるから!もう五年以上も前のことだし全然気にすることないけどね!」

「……そうですか」


 さっき東さんが『長嶺は本気になったら案外一途な男』って言ってたのは、つまり、本気になった相手がいたということ。

 その人の名前が、〝ユカ〟さん。
 

「あ、見て見て花ちゃん! これ長嶺が打ち上げの罰ゲームでやらされた女装!」


 ごまかすように送られてきた長嶺さんの女装は目を見張るほどの美少女だったけど、もちろんそんなことで気はまぎれない。


「クオリティ高いですね」

「でしょう!?」


 東さんが一生懸命話す女装裏話になんとなく相槌をうちながら、集合写真の中からユカさんはどの人だろうって探してしまう。
 
 長嶺さんが本気で好きになった人が、この可愛い女の子たちの中にいるんだ。

 胸がざわざわと喚いて、気持ち悪くなってくる。

 こないだ小説の一節で読んだ〝鉛を飲み込んだような気持ち〟ってこういうことを言うんだろうか。

 長嶺さんのことは好きだけど信じられないからって突き放したくせに、長嶺さんの過去に嫉妬してるとか……なんて自分本位なんだろう。

 元々ない女としての自信がさらになくなっていくのを感じた。



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