長嶺さん、大丈夫ですか?
 ⌒* ⌒*



 昼休憩が終わると、私は長嶺さんと取引先に行くため、いつものように社用車に乗り込んだ。


「さあ、行きますかー」


 隣の上司はいつもと変わらないトーンでそう言って、シートベルトを締めた。


 
 ――これから全力で理子を落としに行く

 

 月曜日にとんでもないことを言ってきたこの上司の仕事ぶりに、特に変わりはなく。

 身構えまくって仕事が終わると同時にダッシュで退勤してる私の方が、なんだか自意識過剰でバカらしく思えてくるほどで。

 私のことを落とそうとする気配は見えない。

 こういう作戦?

 今こうしてあくびをする姿すら可愛く見えるのも、作戦?

 妙にソワソワする心を落ち着けようと、私はドリンクホルダーに置いたコーヒーに手を伸ばした。

 すると、ちょうど同じタイミングでコーヒーに手を伸ばしていた長嶺さんの手の甲とぶつかる。


「!」


 私は弾かれるように手を退けた。


「す、みま、せん」

「……」


 長嶺さんが、じ……と私を見る。


「な、なんですか」


 ひたすら真顔でじっと見られるとどうしたらいいかわからなくて、顔の表面温度がどんどん上昇していく。

 うう……かっこいい。

 ほんとにかっこいいから、かっこいいのは分かったからもうやめて欲しい。

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