長嶺さん、大丈夫ですか?
 しばらくして、長嶺さんがふ、と緊張を解いて笑う。


「さすがに仕事中には手出さないよ」


 すべてお見通しって言わんばかりに余裕の笑み。


「あっ、当たり前です……!」

「あ。残念?」

「そんなわけないじゃないですか!」

「でも残念って顔に書いてある」

「!?」


 私は咄嗟に持っていたファイルで顔を隠す。


「書いてません……っ」


 ……嘘。

 ホッとして、でも、残念って思ってる。

 長嶺さんがクハッと笑う気配がする。


「手出して欲しくなったら言って? こっそり出すから」

「!? な、何言ってるんですか!」


 ……こっそり手出すってなに?

 こっそり手出すって、なに!?
 

「いいから出発してくださいっ」


 誤魔化すように言うと長嶺さんは楽しそうにはーいと返事をして、エンジンをかけた。


 長嶺さんのこういうひとつひとつの言動に一喜一憂してしまう。

 これも長嶺さんの作戦……?

 だめだ、全然守り切れない。

 絶対いま手出されたら甘んじて受け入れちゃう……!

 
< 157 / 284 >

この作品をシェア

pagetop