長嶺さん、大丈夫ですか?
 荷物をたくさん抱える小柄な女性。

 社員証のようなものを首にかけているから、ユメアリフーズの社員だろうか。

 女性は端に寄って一度荷物を置き、小さなバッグからハンドタオルを取り出して汗を拭う。

 12月に入ろうというこの時期に、あんなに汗をかく人はなかなかいない。

 ……あ、お腹が大きい。 妊婦さんだ。

 妊婦さんがあんな荷物を、一人で……!?


「長嶺さんすみません、ちょっと席はずします」


 私は長嶺さんに耳打ちして恩田さんにペコッと会釈すると、妊婦さんの元へ駆け寄る。


「大丈夫ですか? 荷物持つの、手伝わせてください!」


 そう言うと妊婦さんは顔をあげて、私を見た。

 ……ん?

 この人、どこかで……


「えっ、や、そんな、悪いです!」


 妊婦さんは両手と首を横に振っていやいやと遠慮する。

 そのこめかみからはやっぱり汗が流れている。


「いえ、今ちょうど手があいていて、やることがないので。 転んだりしたら大変ですし、やらせてください」


 そこまで言うと、妊婦さんが表情をほわっと柔らかくして無垢な笑顔をむけてくれる。


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