長嶺さん、大丈夫ですか?
「すっごく助かります、ありがとうございますっ!」


 その笑顔があまりにも無防備で、ほわっと心が絆されてしまった。

 なんだか、ピンクのお花が飛んできそうな人だ。

 特別目を引く容姿ではないけど、守ってあげたくなるような可愛さがある。


「いえ、私もお役に立ててうれしいです。 どこまでお持ちしましょうか」
 

 私は彼女の荷物を持てるだけ持って、車を停めているという外の駐車場まで一緒に行くことにする。


「花樫さん?」


 もうすぐ自動ドア、というところで後ろから長嶺さんの声がしたので振り返る。

 すると、長嶺さんが言葉をつぐんで硬直した。

 その視線は、私にではなく隣の妊婦さんに向いている。


「え……」


 妊婦さんが、呟いた。



 
「…………みねくん?」




 ちょうどその時風が吹いて、妊婦さんの首にかかる裏返しだった社員証が返った。



 
「…………優花」

 

 
【九条優花】という名前が、優花さんの体の前でぶら下がった。




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