長嶺さん、大丈夫ですか?
「え……わ、わ~……! 久しぶりだ! どうしたのみねくん!」


 優花さんがそれまでの緊張感を薙ぎ払うような明るい声を放った。


「そっちこそ……本店勤務だっけ?」


 長嶺さんはまだ驚いた余韻を表情に残しながら、私たちの元にきて荷物をさりげなく持つ。

 
「あ、うん! 今日はね、産休に入る手続きで!」

「はー、マジか……そっか。 おめでとう」


 長嶺さんは、これまでにない嬉しそうな表情だった。

 嬉しいだけじゃない、いろんな思いが複雑に入り混じったような、いっそ泣いてしまいそうに感動してるような。

 その目は暖かくて、優しくて、慈愛に満ちている。

 特別な相手でないとしないだろう長嶺さんの表情に、胸の中で灰色の不安が煙のように広がっていく。

 間違いない。

 この人だ。絶対。

 長嶺さんが、本気になった人。


「あ……ありがとう~~~っ」


 そして突然、優花さんが泣き出した。


「え!? ちょ、泣くなよ!」

「だ、だって、まさかみねくんにお祝いしてもらえると思わなくてぇ~……! それに最近マタブルで情緒おかしくてぇ」

「あーあー、しょうがねぇなー」


 長嶺さんがハンカチを取り出して優花さんに差し出す。


「あり、ありが、エッホォッ」

「えづき方よ」


 長嶺さんが困ったように笑いながら、優花さんの背中をさすっている。



 ……嫌だ

 見たくない。



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