長嶺さん、大丈夫ですか?
「いや、でも、」


 いくら社員の方にいいと言われても、なんとなくこれまで守ってきた自分の中のジンクスのようなものに逆らうことに抵抗がある。


「ほら、いいから着とき」

「あっ」


 長嶺さんに半ば強引にコートを奪われ肩にかけられる。

 そこまでされたらもう袖を通すしかない。


「……ありがとうございます」

「うん。じゃあすぐ戻るから」


 そう言って長嶺さんは優花さんの荷物を全部持って、小走りで自動ドアを抜けて外に出て行った。

 前から思ってたけど、長嶺さんって過保護なところがある。


「「……」」
 

 そして残される、初対面の優花さんと私。

 ていうか優花さん、長嶺さんと一緒に車に行けばいいのに。

 どうしてここに残ってるんだろう。

 隣にいると、卑屈な気持ちがどんどん溢れ出してきて、嫌なのに。


「あ、あの!」


 優花さんが私に向き直った。


「私、みねくんには大学のとき……じゃない、高校生の時からお世話になってまして、九条優花と言います!」


 そう言って頭を下げた。

 ……優花さんは、すっごくいい人そうだ。

 明るくて、人懐っこくて、きっとどこに行っても人に好かれるタイプ。

 どことなく、長嶺さんと似てる。


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