長嶺さん、大丈夫ですか?
 今日予定しているC’sフードは輸入食品を主に取り扱っている老舗の大手食品会社で、今回の取引が決まればノイーズコーポレーションの売上に大きく貢献することとなる。
 これまでも何度か担当が営業に行ったけれど、C’sフードの社長が首を縦に振ることはなく、C’sフードはずっと『開かずの扉』として扱われてきていた。
 それが先月、ダメもとで行ってみまーすと挨拶に行った長嶺さんの提案を社長が気に入ってくれて、奇跡的に取引が成立しようとしている。
 それも予定通りに行けば五千万円規模の大型取引だ。 部長がホクホクするのも無理はない。

「絶対取って来いよ! 長嶺!」

「あはは」

 目をカッと開いて念押しする部長を笑顔でかわした長嶺さんは、「行こっか」と私にアイコンタクトして営業所を出た。

「とうとうですね、長嶺さん!」

 駐車場に向かって歩きながら、私はワクワクする気持ちを抑えきれずに声を弾ませてしまう。

「だねー」

 歴史的な日になるかもしれないと言うのに、長嶺さんのテンションがあまりにも普通だ。
 ……はっ! もしかして、今回の商談に自信がないとか?
 さすがの長嶺さんも、ここまでの大きな契約となると不安になるのかもしれない。

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