長嶺さん、大丈夫ですか?
「優花は、俺の初恋の人」


 静寂の中、長嶺さんの抑揚のない声がハッキリと耳に届く。


「俺が昔、どうしようもなく好きだった人。 好きすぎて、一度は唯くんから奪っちゃったぐらい大好きだった人。 結局諦めて離れた後も長いこと未練たらたらで恋愛恐怖症になるぐらい、俺にとって特別な人」


 なんとなく、わかっていた。


「……っ」


 それでも直に長嶺さんの口から聞く衝撃は想像以上だった。

 泣きそうになって、眉間にギュッと力を込めて俯く。

 ……バカだ。 私。


 長嶺さんはこれまでたくさんの女の子と出会っていて、それでも特別は優花さんだけだったんだろう。

 いくら長嶺さんが本気だって言ってくれてたって

 優花さんほどの存在には、なれない。



「……ねぇ」


 長嶺さんがシートベルトを外して、私の座席の背もたれに手をつき顔を覗き込んでくる。


「嫉妬した?」

「……!」


 長嶺さんの仄暗い目と目があって、ゾクッとする。


「っ、し……てません……」

「あんなギラギラした目で優花のこと見てたのに?」


 私はギュッと口を閉じて、意地でも首を横に振る。

 長嶺さんは、どこまで私をいじめれば気が済むんだろう。


「ふーん。 俺はしたけど」

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