長嶺さん、大丈夫ですか?
 もしかして、いってきますって言うのが恥ずかしかった感じ?

 恥かしがるポイントそこ?

 なにも言わない俺に理子ちゃんはバッと背中を向けて、ドアノブに手をかけた。

 すかさずその手を引き留めて自分の方に向けさせて、軽く啄むようなキスをする。

 
「!」


 昨夜、何度唇を寄せたかわからないのに。

 顔を真っ赤にさせてウブな反応をする彼女に愛おしさが込み上げて、口角が上がる。


「いってらっしゃい」

「……い……って、きます」


 あまりの可愛さに、このまま監禁してしまいたい欲をなんとかおさえて手を離した。

 理子ちゃんは逃げるようにドアを開けて出ていく。


「あ、花樫さん」


 敢えて仕事モードで声をかけると、花樫さんも仕事の話だと思ったのか「はい」とかしこまって返事する。


「あとで給湯室でこっそりキスしようね」

「……」


 はい、チベットスナギツネ。


「しません」

「からの~?」

「っ、今から私と長嶺さんは上司と部下で、それ以上でも以下でもありません!! では!!」


 力強く言い放った花樫さんは、ドアをバタンッと勢いよく閉めた。


「ブハッ」


 一人、思わず吹き出す。

 あの子、今日はなにもしなくても勝手に自爆しそうだな。

 楽しみすぎて、しばらく上がった口角を下げられなかった。





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