長嶺さん、大丈夫ですか?

 それからしばらく社長と今後の契約の話をしてから、志戸水親子はペコペコしながら会社を去っていった。


「さて、通常業務に戻りますかー」


 そう言って長嶺さんは営業部に戻るべく廊下を歩き出す。

 人のいないエレベーターに乗り込んだとき、そっと長嶺さんの紙袋をのぞいてみると、見覚えのある生地があった。


「……コートですか?」

「あ、うん」


 最近見ないなと思っていた、長嶺さんのコートだ。

 最後に着てるの見たのはいつだっけ。
 ……そうだ、長嶺さんの家から出社した日だ。
 あの朝、長嶺さんは「トラブった」って結局遅刻してきて、最初家で見たときはこのコートだったのに違うコート着て会社来たからなんでだろうと思ったんだ。


「何で長嶺さんのコートを麗華さんが……?」

「あー……こないだ道でたまたま会って、ちょっとね」


 ちょっとね?

 私の表情で何か察したのか、長嶺さんは私の頭にポンと手を乗せて微笑んだ。


「大丈夫。 外で上着なくして寒そうにしてたから貸してあげただけ。 ほんとに何にもないよ。 気にしないで」


 ポンポンとしながらあやすように言う。
 また子供扱いされてるって思うのに、急に彼氏力を出してくる長嶺さんにキュンとしてしまって、これ以上問い詰める気になれない。


「別に……そんな気にしてないですけど」

「なんだ。 気にしてくれないのか。 残念」


 流し目で微笑む長嶺さんには、やっぱり私の考えてることなんかお見通しのようで。
 私はなけなしのプライドでふいっと顔をそむけた。

 そこでエレベーターが営業所のある階に着いて、長嶺さんに続いて降りる。

 とは言え、やっぱり気になる。

 麗華さんと何があったんだろう。


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