長嶺さん、大丈夫ですか?
 楽しみにしてますと打ってる途中で再びメッセージが追加される。


【俺も好き】


「……っ」


 私は一旦スマホを閉じて、熱くなった顔を俯かせた。

 なんなの……甘すぎる。
 世の恋人たちはみんなこんなことしてるの?
 もう、なんか頭の中溶けてバカになっちゃいそう。
 ふと気になって、顔を上げて辺りを見渡してみると、みんなスマホに目を落としていて、中には口角を緩ませてる人もいる。

 ……案外みんなもう、頭の中溶けてるのかもしれない。

 なんとかある程度の平静を取り戻した私は、スマホを開き直す。


【楽しみにしてます。魚。】


 送信ボタンを押すと、すぐに既読マークがついた。


【はーい】【魚をね】


 魚がビチビチと跳ねるスタンプが添えられてくる。

 長嶺さんのしたり顔が目に浮かぶようだった。


「ふ」


 つい声に出して笑ってしまって、ハッと口を塞ぐ。

 幸い、周囲の人はほとんどイヤフォンをしていたり、あまり他人に感心がない様子。


 私はめいっぱい上がってしまった口角を隠そうと首が曲がる限り俯いた。



 ……楽しみだな。 クリスマス。



 
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