長嶺さん、大丈夫ですか?
 長嶺さんに連れられてきたお店は、隣の席があまり見えない半個室のペア用ソファ席で、夜景に向かって二人横並びで座れるようになっている。
 なんってロマンチックなんだ。
 それにお酒も食事もおいしくて、音楽も雰囲気もロマンチックだし、ソファはふかふかだし。
 このあと、夜の水族館?
 なんってロマンチックなんだ。なんってロマンチックなんだ。
 こんなロマンチックな体験は、初めてだ。
 眼鏡外してコンタクトしたのも初めてだし、なに着たらいいかわかんなくてアユコに相談したのも初めてだけど。
 長嶺さんはきっと、こんなロマンチックなデートいくらでもしてきたんだろうな……。
 グラスから口を離すと小さくため息が漏れてしまって、いけない、と慌てて卑屈な考えを振り払う。

 
「あ、水族館って何時ぐらいまでやってるんですかね? いつ頃行きまー……」


 と、顔をあげると長嶺さんが頬杖を突きながらまっすぐに私を見ていた。


「っ、? な、なんですか」


 いつから見られてた?


「何考えてんのかなーって」

「えっ?」

「こんな日に物憂げな顔して。俺のせい?」


 長嶺さんは私の手からグラスを取って机に置くと、私の顎に手を添えクイッと自分の方に向けさせる。


「!」


 長嶺さんがいつも、キスするときの仕草。


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