長嶺さん、大丈夫ですか?
「っ、ここ、お店……っ」

「やっぱ眼鏡ないほうがしやすいよね」

「ちょっ、長嶺さんっ」


 長嶺さんの眉尻がひく、と動く。


「〝長嶺さん〟? 今は仕事中じゃないよ、理子」


 長嶺さんがグッと距離を近づける。
 まずい。 長嶺さんの変なスイッチ入れちゃったかも。


「っ、ちょっと、駄目ですって……っ」

「大丈夫だよ、みんな自分たちの世界に夢中で周りのことなんか見えてないよ。ほら、理子も集中して」

「集中って……っ」


 確かにガラス越しに見渡してみると、みんな自分たちの世界に入ってて私たちのことなんか気にしてる人はいない。
 長嶺さんの両手が頬に添われるとドキドキして、それ以上抵抗する気が失せてきてしまう。
 私は長嶺さんに身をゆだねて目を閉じた。


「……」

「……」

「……」


 何も起こらない。
 薄目を開けると、ニヤニヤしてる意地悪な上司がいた。


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