長嶺さん、大丈夫ですか?
 橋を渡り終えた先、水族館入り口前でトイレマークを見つけて足を止める。


「ちょっとお手洗い行ってきていいですか?」

「うん。いってらっしゃい」


 列に並んでトイレに入り、用を済ませて鏡で身なりのチェックをする。
 ……別に変なとこないよね。うん。
 着慣れないヒラヒラのワンピースを、長嶺さんは開口一番に可愛いと言ってくれたけど。
 自分では似合ってるのかよくわからない。
 もしかしたらお世辞を言ってくれた可能性もある。
 周りを見ると、同じように念入りに身なりのチェックをする女の子たちだらけだった。
 みんなオシャレで、なんというか、垢抜けている。
 あれ……わたし、なんだか子供っぽい?

 少し不安を覚えつつトイレを出ると、向かいの壁沿いには何人か男性が立っていて、みんな彼女がトイレから帰るのを待っているようだった。
 その中で頭ひとつ背の高い私の彼氏はスマホに目を落としていて、私がトイレから出てきたことにまだ気づいていない。
 うわ。かっこいい。
 もしかしてこれ、恋愛フィルター? 一人だけ輝いて見えるんだけど。
 ほんとにあのかっこいい人の彼女が私でいいのか、わからなくなってくる。
 ……いやいや、いいんだよ、長嶺さんがいいって言ってくれてるんだから。
 マイナス思考になろうとする自分をそう鼓舞して長嶺さんの元へ行こうとした、その時だった。


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