長嶺さん、大丈夫ですか?
 どう返していいかわからないでいる私に、長嶺さんがふ、と困ったように笑って、もう一度私を抱きよせた。


「……俺さぁ」


 冬の夜、冷たく澄みきった空気に長嶺さんの色のない声が滲む。


「今の部署、六年目なんだ」

「……え……?」


 ノイーズの営業は、基本的に三年で異動する。
 長くても六年でみんな異動する。

 つまり長嶺さんは、



「次の四月、異動すると思う」



 おととし異動した佐々木さんは大阪、久下沼さんは北海道。 去年異動した進藤さんは、ニューヨークだった。


「……えっと……」


 同じ東京本社内に異動することは、まずない。


「遠距離になるってこと……ですか……?」

「……うん。連絡はできるだろうけど……会いたいときに会うっていうのはできなくなるかな」

「……」



 ただでさえこんな近い距離で不安になってるのに、遠距離……?



「そう……ですか……」



 今まで感じてた不安が、さらに大きな波となって私を襲う。


 長嶺さんが、そばにいなくなる? すぐ会えなくなる?


「……っ」


 ボロッと目から涙がこぼれた。


 嫌だ。 絶対嫌だ。 耐えられない。


 これ以上長嶺さんと離れるなんて。



「……理子ちゃん」



 耳元で長嶺さんの優しい声がする。



「正直に言って欲しいんだけど」


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