長嶺さん、大丈夫ですか?
「っ……!」
 
 ぞわぞわっと全身に悪寒が走る。
 社長の鼻息が荒々しく聞こえる気がする。

「予約の取れない三ツ星フレンチも、私が言えば当日行けてしまうからね」

 そして腰に回された社長の手が、下に降り始めた時だった。


 ガチャッ。

「「!」」

 ノックもなしに扉が勢いよく開いた。
 跳ねるように社長の手が離れる。

「……おぉ、長嶺さん。 早かったね」

 社長は何事もなかったかのように立ち上がって、扉をあけた姿勢のまま硬直する長嶺さんに歩み寄る。

 社長を見る長嶺さんの表情には、色がない。

「どうかしたかね、長嶺さん」

「……」

 社長は『この件には触れるな』と言わんばかりの圧倒的なオーラを醸している。

 そして長嶺さんはようやく口を開いた。

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